2015年01月17日

続 8時ちょうどの のぞみ56号。

猛烈な空腹を抱えながらも新大阪で駅弁を買いそびれ、
慌てて飛び乗った、新大阪発8時ちょうどののぞみ56号。その続編です。







指定席は、満席でした。新大阪発8時ちょうど、でわかりやすかったからでしょうか。
慌てて飛び乗った私は、肩で息をしながら自分の席を見つけ、どっこらしょう、と腰掛けました。
隣の席ではリクルートスーツを着た新卒風の若い女性が、
たこ焼きとビールですでに晩ごはんの真っ最中でした。
弁当も雑誌も無く、しかも通路側で窓外にも目をやることが出来ない私は所在無く、後はもう車内販売のワゴンが来るのを待つのみ、なのです。

新幹線は、京都を遥か過ぎ、米原らしきホームが後方に遠ざかって行きました。
ワゴンは、一向にやってくる気配はありません。
車内販売のワゴンは、いつもなら京都を過ぎたあたりに来るものなのです。
大阪を出てかれこれ40分。うーむこれはどうしたものか。
弁当に備えて倒していたテーブルが邪魔になって、
パタン、と閉じて、テーブルの裏の記載で、



16号車であるな。

この車両が16号車、要は一番端の車両であることに、ここで改めて気がつきました。
端なのでワゴンが遅いのだな。
それにあの、新大阪駅の売店の弁当完売。
それに、満席。
8時ちょうど、というわかりやすい時間はあずさ2号だけで充分なのにと意味不明なことをブチブチ妄想しているうちに、新幹線は、ついに名古屋のホームに滑り込みました。




大勢の人が席を立って降車口へ向かいます。
窓外を、駅弁、の二文字が通り過ぎました。
おお! そうかそうであった。何もワゴンを待つことは無いのだ。
ホームに出て発車までの間に駅弁を買い求め手に入れる、ということだってあるのだ、
守りばかりではいかん、攻めるのだ。日本のサッカーもそれで駄目なのだ、などと
前後不覚になりながら財布を握り締め、席を立ちました。

しかし到着が夜9時前で、名古屋人には丁度良いのか、
降りる人がひきも切らず、立ち遅れた私はその末尾についてホームに降りると、
もはや発車のベルが鳴っています。
一度は果敢に弁当屋のある方向へ走りだしたりしたものの、16号車は余りに遠かった。
3両分ほど走ったところで断念し、また走って16車に手ぶらで駆け戻りました。
車内に入る前にホームから自分の席が目に入りました。
私の隣の窓側でたこ焼きを食べていたリクルート女子が、
深海魚を見るようにガラス越しにこちらを見ていました。
いきなり席を立ったかと思うとホームをものすごい勢いで走っていって、
すぐ戻ってきて肩で息をしているのですからこれはしかたありません。
私は、頭の中の深いところでちくちょうちくしょう、と叫びながら
後はもうワゴンに賭けるしかないのです。

豊橋を過ぎました。ワゴンは来ません。
浜松の灯りが見えてきました。
丸亀製麺で釜揚げ並、を食べてから、かれこれ10時間は経つなあ、
もう、あきらめよ。などと半眼のフーセン頭になっていたその時、ついに、




おワゴン様が、来た。

この瞬間まで幾星霜。
やっと弁当を手にすることができる。
ワゴンは、私の前で2度3度、ビールやおつまみやらを要求されながらも、確実に、
私の座します16号車2Dの席へ近づいてきて、
今まさに私の挙手により、横づけされました。
私は、特段どうということはない体で言いました。
「弁当、ありますか?」 「すいません売り切れなんです」 
おお。
「弁当に替わるものないですか。サンドイッチとか」 。
ワゴンの娘は困っています。
「サンドイッチも売り切れなんです」 「何でもよいので。替わりになれば」 
隣のリクルートたこやき女子が明らかにこっちを見ています。
さっきの名古屋ダッシュは駅弁探しであることすら見透かされたようです。
食い下がる私に、ワゴンの娘が言いました。「赤福・・・とか」 。
隣の席のたこやき娘は背中を向けました。必死で笑いを堪えているのでしょう。
どこの世界に弁当の替わりに赤福をむさぼる輩がおるのか。
そこで私が、おおそれは良いですなあ、などと言って赤福をバクバク食べ出したら
隣の席のたこ焼き娘はハラワタがよじれて悶絶卒倒するに違いありません。
結局、散々の押し問答の末、ちくわ、を手に入れました。そのちくわが、

えらいこと、ちっちゃい。




私は、いじいじとちくわを齧りながら、となりでくうくう寝息を立て始めたリクルートたこやき女子の向こうに飛びす去っていく窓外の闇を、ただただ見つめるのでした。














  


Posted by チャームサロンカワサキ&フェイシャルクラブ at 18:50Comments(0)せんむのブログ