2014年02月20日
淡路島のど根性水仙 5
灘黒岩郷の水仙に梅、を満喫して
崖の杣道を、普段の運動不足を呪いながら膝を打ち震わせ
漸く車までたどり着きました。
時刻はまだ3時半。少し陽が長くなったので、夕暮れまでまだ少しあります。
せっかくであるので、どこか淡路島で立ち寄るべきスポットは無いか、と
来た道をとって返しながら看板に目を凝らしていました。
淡路ワールドパークおのころ、の標識が見えます。
これは薄ぼんやり知識があって、たしかピサの斜塔やタージマハルなどの
世界的建造物をミニチュアにして、ガリバー気分を楽しめる、そのようなものであったか、などと
ほんのり想定するもののそれほど触手は動かず。
第一寒い。車の外気温表示は5℃、を指しています。
先ほど打ち震わせた膝問題、もあるのでこれ以上歩きたくない。
それではもう帰りにどこかのPAでも寄って、と、高速の入口を目指していると
「イングランドの丘」の看板が見えてきました。
おお。それはこの辺りであったか。
ここはもうはっきり知っていました。しかし何故かこのときの私の頭の片隅には
この選択肢は思い浮かばなかったので、不意を突かれた、ように思いました。
イングランドの丘、と言えば、コアラ、であります。
コアラちゃん。
私は幼少期に、父親が、どこで手に入れたのか、当時としてはめずらしい
コアラのぬいぐるみを私に与え、私は、男のくせに寝るときはこのぬいぐるみと常に一緒でした。
うちは商売をしているので、両親共に働きに働きづめで、
私が眠る頃両親は遠く離れた台所で食事をしており、
バイパスが出来る前の国道42号線に面して、車の車輪の路面擦過音が聞こえる畳敷きの部屋で、
眠りにつくまで、毎晩、様々やって来る魑魅魍魎との格闘がありました。
そして、怨霊退散の守り神として、両親の懐のぬくもりを、小さなコアラのぬいぐるみに委ねていました。
今でこそバイパスが出来てすっかり交通量も少なくなった旧国道ですが
当時は高度成長の真っただ中であり、紀南へ行くにはこのルート一つであったので
夜でも車の往来は引きも切りませんでした。
大きなトラックなどが通り過ぎる時の地鳴りのようなタイヤの音や、
不意に鳴る怪鳥の雄たけびのようなクラクションの渦の中で、
5歳の私はコアラのぬいぐるみを抱きしめ、小さな口角を、ひこひこわらわらと震わせて睡魔に負けるのを待っていました。
であるので、
ここでコアラ、と今ひとたびの邂逅、ということがあっても良いのではないか、と
脇道へ逸れ、イングランドの丘へと車を走らせました。
イングランドの丘は、住宅と畑が入り混じった丘陵地に、突然どすん、と現れました。

駐車場には、車は疎ら。
入口のゲート付近に人の姿がぽつん、ぽつんと見えますが、閑散としています。
入場券売り場の女の子に、「今の時期見るものはありますか」と聞きますと
ややきまりが悪そうな頬笑みを浮かべて「コアラと・・・・」と言いました。後が続きません。
パンフレットを広げて見ますと、広大な敷地の中に池があってグラスボートに乗れたり乗馬ができたりお花畑があったりと

季節を選んで来たらそれはもう半日十分遊べるくらいの充実したパークのようです。
しかし今は真冬2月の平日しかも気温5℃であり
この時期に見るものは。などと愚直な質問をするなよケハイでわかるやろう今は完全アウェイなんや、おっさん。と
言いたかったであろうにつまらんことを聞いた、とやや反省しながら園内へ入りました。

人が、おりません。
とりあえずは前へ前へと進んでいきますと、左手に温室があって、
ここだけはこの季節でも様々な花が咲き乱れているようでありましたので、入ってみました。
ぬくいのが、ありがたかった。
おわり。
ベゴニア、などに特段思い入れがあるわけではなく、何か、ハゲアタマ、的な名前の植物があったなあ、
と思いだすくらいで、特にカンドーすべきことはありませんでした。
温室を出て、寒さが一層沁みる素寒貧とした道をさらに前へ進むと
ありました。

おコアラ様の、お屋敷。
中に入りますとここだけは人がいました。
家族連れやらカップルやらが、ガラスの向こうのコアラを眺めていました。

コアラは、1匹やツガイ、ではなくて、何匹もいるようです。
止まり木、があってそこに寝ぐら兼えさ場、のような感じでユーカリのカタマリがあり、
コアラはそこに、1本の止まり木に1匹づつ、丸くなっています。
コアラ、動かず。
見物客も、言葉無し。
しかしコアラであるな、ということは確認できたので、「コアラを見た」という最低限の既成事実は成立し
見物客は皆出て行って、私一人になりました。
私も納得してその場を離れようとしたその時、私の目の前の止まり木のコアラが突然、丸めていた背中を伸ばしたかと思うと
ゆるゆるゆる、と動き出し、鉛のように黒光りして尖った爪を木の幹に立て
ユーカリの葉っぱを、食べ始めました。
もふ、もふ、もふ、と、温泉に入ったおじいさんが自分の顔を手拭いで拭うような緩慢さで、葉っぱを食べているのです。

しばらくすると、ユーカリを食べていたコアラが、今度はユーカリをくわえたまま、動かなくなりました。
ユーカリは、ベロのように半分口から出たままです
まぶたが、閉じていました。
ユーカリを食べながら眠ってしまったようです。
自然と、笑いが込み上げました。
くつくつくつと、誰もいない館内で笑い続ける私の横で
5歳の私が少し笑ったような気がしました。

崖の杣道を、普段の運動不足を呪いながら膝を打ち震わせ
漸く車までたどり着きました。
時刻はまだ3時半。少し陽が長くなったので、夕暮れまでまだ少しあります。
せっかくであるので、どこか淡路島で立ち寄るべきスポットは無いか、と
来た道をとって返しながら看板に目を凝らしていました。
淡路ワールドパークおのころ、の標識が見えます。
これは薄ぼんやり知識があって、たしかピサの斜塔やタージマハルなどの
世界的建造物をミニチュアにして、ガリバー気分を楽しめる、そのようなものであったか、などと
ほんのり想定するもののそれほど触手は動かず。
第一寒い。車の外気温表示は5℃、を指しています。
先ほど打ち震わせた膝問題、もあるのでこれ以上歩きたくない。
それではもう帰りにどこかのPAでも寄って、と、高速の入口を目指していると
「イングランドの丘」の看板が見えてきました。
おお。それはこの辺りであったか。
ここはもうはっきり知っていました。しかし何故かこのときの私の頭の片隅には
この選択肢は思い浮かばなかったので、不意を突かれた、ように思いました。
イングランドの丘、と言えば、コアラ、であります。
コアラちゃん。
私は幼少期に、父親が、どこで手に入れたのか、当時としてはめずらしい
コアラのぬいぐるみを私に与え、私は、男のくせに寝るときはこのぬいぐるみと常に一緒でした。
うちは商売をしているので、両親共に働きに働きづめで、
私が眠る頃両親は遠く離れた台所で食事をしており、
バイパスが出来る前の国道42号線に面して、車の車輪の路面擦過音が聞こえる畳敷きの部屋で、
眠りにつくまで、毎晩、様々やって来る魑魅魍魎との格闘がありました。
そして、怨霊退散の守り神として、両親の懐のぬくもりを、小さなコアラのぬいぐるみに委ねていました。
今でこそバイパスが出来てすっかり交通量も少なくなった旧国道ですが
当時は高度成長の真っただ中であり、紀南へ行くにはこのルート一つであったので
夜でも車の往来は引きも切りませんでした。
大きなトラックなどが通り過ぎる時の地鳴りのようなタイヤの音や、
不意に鳴る怪鳥の雄たけびのようなクラクションの渦の中で、
5歳の私はコアラのぬいぐるみを抱きしめ、小さな口角を、ひこひこわらわらと震わせて睡魔に負けるのを待っていました。
であるので、
ここでコアラ、と今ひとたびの邂逅、ということがあっても良いのではないか、と
脇道へ逸れ、イングランドの丘へと車を走らせました。
イングランドの丘は、住宅と畑が入り混じった丘陵地に、突然どすん、と現れました。

駐車場には、車は疎ら。
入口のゲート付近に人の姿がぽつん、ぽつんと見えますが、閑散としています。
入場券売り場の女の子に、「今の時期見るものはありますか」と聞きますと
ややきまりが悪そうな頬笑みを浮かべて「コアラと・・・・」と言いました。後が続きません。
パンフレットを広げて見ますと、広大な敷地の中に池があってグラスボートに乗れたり乗馬ができたりお花畑があったりと

季節を選んで来たらそれはもう半日十分遊べるくらいの充実したパークのようです。
しかし今は真冬2月の平日しかも気温5℃であり
この時期に見るものは。などと愚直な質問をするなよケハイでわかるやろう今は完全アウェイなんや、おっさん。と
言いたかったであろうにつまらんことを聞いた、とやや反省しながら園内へ入りました。

人が、おりません。
とりあえずは前へ前へと進んでいきますと、左手に温室があって、
ここだけはこの季節でも様々な花が咲き乱れているようでありましたので、入ってみました。
ぬくいのが、ありがたかった。
おわり。
ベゴニア、などに特段思い入れがあるわけではなく、何か、ハゲアタマ、的な名前の植物があったなあ、
と思いだすくらいで、特にカンドーすべきことはありませんでした。
温室を出て、寒さが一層沁みる素寒貧とした道をさらに前へ進むと
ありました。

おコアラ様の、お屋敷。
中に入りますとここだけは人がいました。
家族連れやらカップルやらが、ガラスの向こうのコアラを眺めていました。

コアラは、1匹やツガイ、ではなくて、何匹もいるようです。
止まり木、があってそこに寝ぐら兼えさ場、のような感じでユーカリのカタマリがあり、
コアラはそこに、1本の止まり木に1匹づつ、丸くなっています。
コアラ、動かず。
見物客も、言葉無し。
しかしコアラであるな、ということは確認できたので、「コアラを見た」という最低限の既成事実は成立し
見物客は皆出て行って、私一人になりました。
私も納得してその場を離れようとしたその時、私の目の前の止まり木のコアラが突然、丸めていた背中を伸ばしたかと思うと
ゆるゆるゆる、と動き出し、鉛のように黒光りして尖った爪を木の幹に立て
ユーカリの葉っぱを、食べ始めました。
もふ、もふ、もふ、と、温泉に入ったおじいさんが自分の顔を手拭いで拭うような緩慢さで、葉っぱを食べているのです。

しばらくすると、ユーカリを食べていたコアラが、今度はユーカリをくわえたまま、動かなくなりました。
ユーカリは、ベロのように半分口から出たままです
まぶたが、閉じていました。
ユーカリを食べながら眠ってしまったようです。
自然と、笑いが込み上げました。
くつくつくつと、誰もいない館内で笑い続ける私の横で
5歳の私が少し笑ったような気がしました。
