2014年03月04日
幸福の木に花が咲いたよ。
うちの店の2階の事務所には、幸福の木、という、
どこにでもある観葉植物があります。
ちょうど私の座っている椅子のすぐ後ろ、南向きの日当たりのよろしい場所に
ずーっと昔、から鎮座しています。

私が東京から帰ってきてお店を継いだのがもうかれこれ20年以上前になりますが
この木はおそらくそれ以前からここに居たような気がします。
小さめの鉢に、はじめは私の胸のあたりの高さしかなかったものが
すくすくすく、と伸び続け、冬が終わる頃になると花を咲かせるようになりました。
2月、になると小さな茎が木の上部からにょきにょきにょきと伸び始め、
30㎝位まで伸び続けます。

そして3月の雛祭りの頃になると、夜に、真っ白な花を咲かせるのです。

初めて花が咲いたのは、7年前のことでした。
忘れもしません。その日はお店のストアコンピューターがトラブルを起こして
皆が帰った夜、コールセンターの男性と長い長い電話のやりとりをしていました。
これを直さないとあくる日の朝のレジが起動できない、という鬼気迫る状況で
電話の向こうのオペーレーターとの丁々発止のやり取りが続き
パソコンの専門用語を滝のように聞かされること2時間。
オペレーターの声がもはやありがたい念仏のように聞こえてきて半ばあきらめ
「もうええわ。どうでも」と投げやりになって電話を切ったとき
今までに嗅いだことのない、何とも言えない良い香りが漂っていることに気がつきました。
なんやこれは・・・・?
少し離れた、日本そばのチェーン店から香ばしい鰹節のニオいが漂ってきたり
隣の魚屋が夕刻捨てたであろう生ごみの臭いに辟易となる、ことはあっても
このような芳しい匂い、をかつて私は嗅いだことが無く、あまつさえ深夜のことなどで
窓は閉め切っており、匂いの源がわかりません。
この時点でまだ匂い、が私の背後1mに鎮座している幸福の木からのものであるとは思うだにせず
切った受話器を掴んだまましばらく、恍惚としておりました。
そして、暫くした後、これが幸福の木の花の匂い、であることを発見したのです。
(観葉植物にも花咲くんか・・・・)
私は、幸福の木の、丸い手鞠のような花弁に顔を近づけました。

花は、ピンポン玉大のひとかたまりで、それぞれに純白の花弁を咲かせ、
そのピンポン玉が7つ8つ、一斉に花開いています。
これは愛らしい。
しかしその香りたるや。
薔薇の香りのソープに、ライムを垂らしたような、
豊潤にして清楚、な香り。
花弁に鼻を押し当てると
脳髄に電流を浴びたようにクラクラ。
遠い遠いところに連れて行かれそうになりました。
あくる朝出勤すると、昨日開いていた花弁は閉ざされ、咲く前、の蕾の状態に戻っていました。
昨日の夜あれだけしとどに匂いを放った形跡はかけらも無く
私がスタッフに昨日の夜の開花を話しても皆訝しがるだけでありました。
2日目の夜、私は夕刻から、今日も開いてくれるか、と
わくわくしながら眺めていますと、夜7時、を回った頃から、
白いつまようじ、を半分に切った位の蕾が、ゆるゆると、開いてきました。
やがて9時を回る頃にはあらかた開花し、昨日と同じような芳しい香りを辺りにまき散らし始めたのです。

事務所の中は、昨日同様花の香りに包まれました。
花の香りに包まれて、私はまた恍惚となりました。
どうやらこの花は夜行性。月下美人、や宵待草のようないわゆる夜香木、という種類のようです。
2日連続でこの僥倖に与れるとは。
2日目の今日は、昨日とは少し香り、が変化しています。
昨日は清楚で清々しいかった香りが、豊潤にして濃厚な香りへと変化していました。
私は昨日同様、花弁に顔を近づけました。

昨日は一部、開いていない蕾も見受けられましたが、今日は、全開です。
むせかえる様な、強烈な香り。
今を盛りと咲く花たち。
そしてよく見れば、なんということでしょう。花弁の少し下の茎の部分に、透明な“蜜”さえたくわえているではありませんか。

これはもはや、これと似て非なるものがあるではないか。
霊長類ヒト科ヒト目。
我々の身の周りにわんさかいて、今を盛りと咲き誇る花たちよ。
鳴呼、今ひとたびの青春よ。
などとまあ良からぬ妄想をしてしまう、それほどまでに色香素晴らしく幸せに満ち満ちた、幸福の木の花でありました。
が、この幸福の木に花が咲く、という現象は
木、自体がかなりのストレスにさらされて、危機を感じて種の保存のために花をさかせているのであるよ、
などと書かれた専門家の意見を見つけてしまいました。
この辺もあくまで人間臭い。
我々も猛烈に精神的に疲弊し切った時などは
睡眠欲や食欲よりもむしろ、公序良俗によろしくないどす黒い本能だけがむき出しの電極のように火花を散らす、
などということがありました。
過去形です。
芳しい香りは、SOSであったのですね。
一度きちんと鉢から出して根をきれいにして
腐葉土などもいっぱい上げて、
いつまでも私とともにありますように。
どこにでもある観葉植物があります。
ちょうど私の座っている椅子のすぐ後ろ、南向きの日当たりのよろしい場所に
ずーっと昔、から鎮座しています。

私が東京から帰ってきてお店を継いだのがもうかれこれ20年以上前になりますが
この木はおそらくそれ以前からここに居たような気がします。
小さめの鉢に、はじめは私の胸のあたりの高さしかなかったものが
すくすくすく、と伸び続け、冬が終わる頃になると花を咲かせるようになりました。
2月、になると小さな茎が木の上部からにょきにょきにょきと伸び始め、
30㎝位まで伸び続けます。

そして3月の雛祭りの頃になると、夜に、真っ白な花を咲かせるのです。

初めて花が咲いたのは、7年前のことでした。
忘れもしません。その日はお店のストアコンピューターがトラブルを起こして
皆が帰った夜、コールセンターの男性と長い長い電話のやりとりをしていました。
これを直さないとあくる日の朝のレジが起動できない、という鬼気迫る状況で
電話の向こうのオペーレーターとの丁々発止のやり取りが続き
パソコンの専門用語を滝のように聞かされること2時間。
オペレーターの声がもはやありがたい念仏のように聞こえてきて半ばあきらめ
「もうええわ。どうでも」と投げやりになって電話を切ったとき
今までに嗅いだことのない、何とも言えない良い香りが漂っていることに気がつきました。
なんやこれは・・・・?
少し離れた、日本そばのチェーン店から香ばしい鰹節のニオいが漂ってきたり
隣の魚屋が夕刻捨てたであろう生ごみの臭いに辟易となる、ことはあっても
このような芳しい匂い、をかつて私は嗅いだことが無く、あまつさえ深夜のことなどで
窓は閉め切っており、匂いの源がわかりません。
この時点でまだ匂い、が私の背後1mに鎮座している幸福の木からのものであるとは思うだにせず
切った受話器を掴んだまましばらく、恍惚としておりました。
そして、暫くした後、これが幸福の木の花の匂い、であることを発見したのです。
(観葉植物にも花咲くんか・・・・)
私は、幸福の木の、丸い手鞠のような花弁に顔を近づけました。

花は、ピンポン玉大のひとかたまりで、それぞれに純白の花弁を咲かせ、
そのピンポン玉が7つ8つ、一斉に花開いています。
これは愛らしい。
しかしその香りたるや。
薔薇の香りのソープに、ライムを垂らしたような、
豊潤にして清楚、な香り。
花弁に鼻を押し当てると
脳髄に電流を浴びたようにクラクラ。
遠い遠いところに連れて行かれそうになりました。
あくる朝出勤すると、昨日開いていた花弁は閉ざされ、咲く前、の蕾の状態に戻っていました。
昨日の夜あれだけしとどに匂いを放った形跡はかけらも無く
私がスタッフに昨日の夜の開花を話しても皆訝しがるだけでありました。
2日目の夜、私は夕刻から、今日も開いてくれるか、と
わくわくしながら眺めていますと、夜7時、を回った頃から、
白いつまようじ、を半分に切った位の蕾が、ゆるゆると、開いてきました。
やがて9時を回る頃にはあらかた開花し、昨日と同じような芳しい香りを辺りにまき散らし始めたのです。

事務所の中は、昨日同様花の香りに包まれました。
花の香りに包まれて、私はまた恍惚となりました。
どうやらこの花は夜行性。月下美人、や宵待草のようないわゆる夜香木、という種類のようです。
2日連続でこの僥倖に与れるとは。
2日目の今日は、昨日とは少し香り、が変化しています。
昨日は清楚で清々しいかった香りが、豊潤にして濃厚な香りへと変化していました。
私は昨日同様、花弁に顔を近づけました。

昨日は一部、開いていない蕾も見受けられましたが、今日は、全開です。
むせかえる様な、強烈な香り。
今を盛りと咲く花たち。
そしてよく見れば、なんということでしょう。花弁の少し下の茎の部分に、透明な“蜜”さえたくわえているではありませんか。

これはもはや、これと似て非なるものがあるではないか。
霊長類ヒト科ヒト目。
我々の身の周りにわんさかいて、今を盛りと咲き誇る花たちよ。
鳴呼、今ひとたびの青春よ。
などとまあ良からぬ妄想をしてしまう、それほどまでに色香素晴らしく幸せに満ち満ちた、幸福の木の花でありました。
が、この幸福の木に花が咲く、という現象は
木、自体がかなりのストレスにさらされて、危機を感じて種の保存のために花をさかせているのであるよ、
などと書かれた専門家の意見を見つけてしまいました。
この辺もあくまで人間臭い。
我々も猛烈に精神的に疲弊し切った時などは
睡眠欲や食欲よりもむしろ、公序良俗によろしくないどす黒い本能だけがむき出しの電極のように火花を散らす、
などということがありました。
過去形です。
芳しい香りは、SOSであったのですね。
一度きちんと鉢から出して根をきれいにして
腐葉土などもいっぱい上げて、
いつまでも私とともにありますように。